2017年 ACT.6

「朝取りとうもろこしの美味しさは坂道に比例する!」

すっかり日も短くなり、夕方4時には洗濯物を取り込まなければいけない今日この頃、皆様どんなステージライフを送っていらっしゃいますか?

私事ではありますが、8月にシエークスピア「真夏の夜の夢」舞台公演を終え、1週間ほど夏休みをいただき恒例の八ヶ岳「ひらめ山荘」へ。

毎年参加の94歳の叔母は腰痛で参加できず、今回のゲストは5月に購入した「電動アシスト付き折りたたみ自転車」、以下「電動アチャリ」と呼ぶ。東京では自宅から近くの公園まで電動アチャリで往復する、そこそこの坂道と往復10キロほどの単純な行程だが、山荘は当たり前のように山の中にあり、そう簡単ではないことはわかっていたが、どうしても電動アチャリを持って行きたかった。
そのための折りたたみでもある。どんな坂道だろうと想定内であり、何てったって電動だからと高をくくっていた。

その山荘での朝、梢を渡る涼やかな風、ミズナラの葉越しに見える南アルプスの最高峰北岳、ああ、あまりに爽やかな朝!そんな朝は何かしたい、何か美味しい物を食べたい!よしっ!「朝採りトウモロコシ」を買ってこよう!この素晴らしい朝になくてはならない季節限定自然の恵み、黄金色に輝くつぶつぶ、つぶつぶ! そーだ! 朝採りだーー朝採りだ~~!
皆のものー朝採りだあーーーーっ!ははあーあーーーーっ!てなわけで、朝採りすったもんだ劇場。

いつもならクーパーS君を無理やり起こして一気に坂を駆け降りていく。しかーし、今回は?
そう玄関前に鎮座する「電動アチャリ」君。そうです君の出番です。

さあ、玄関を開け勢いよく「電動アチャリ」に跨ったR翁はいきなり真っ黒いペダルを漕ぐ、思いっきり漕ぐ、うん? 電動アチャリのペダルが重い、なんだこの重さは、登り坂ではない、うーん重い!重い! 電動アチャリめ血迷ったか! 山荘から20メートルほど来たところで、ブレーキをかけサドルから尻を下ろす。なんと、なんとなんとなんとなんとなんと! バッテリーが装着されてない。どこだあーーっバッテリーはっ……。落ちてない、落ちてるわけがない。はて? そうか玄関だーーーあっ! R翁血迷ったーーっ! 戻る20メートル戻る、簡易舗装された平坦な道20メートル、重い、バッテリーのない電動アチャリ、まるでスキー靴を履いて富士登山をしているくらい重い、重い、仕方なく立ち漕ぎをする、電動アチャリで立ち漕ぎをしてるやつはいまだかつて見たことない、玄関の鍵を開ける、目の前にバッテリー、「私を置いてどうしたの」。楚々として座っている……。

何故?何故これに気がつかなかったのか!? 何故!何故…何故。小さな唖然と微量な脱力感。気をとり直して玄関を出る、ここで気がつく、「そうかっ!20メートル戻らなくても、電動なしチャリをそこに置いておけばよかったのか…」。あーーっ!微々たる後悔。くそ、ここで愕然と……しない、これくらいじゃ愕然としないー!爽やかな朝だから、強くなった66歳!

ミュージカル「コーラスライン」からWhat I Did for Love悔やまーない~~♪♪

バッテリー装着! 第一の下り坂、傾斜度30度?はあるだろうか、朝採りに辿り着くまでの1番キツイ坂道、ブレーキはかけっぱなし、左手中指の「バネ指」が痛む、そんなこと言ってられない、必死に降りる、約100メートル後90度の左カーブ、ブレーキが悲鳴をあげる、右手に力を込めれば「ジャックナイフ」、左手ならば後輪がロック、どっちもヤバイ。必死にターン! なんとか曲がった、上体を立て直す。10メートルでまた90度右ターン! 車体を右に倒す、クリア、50メートル下り坂、少し緩やかな坂道、ひと息つく。おゝ風が爽やかで気持ち良い、風を切るとはこういうことか、思わず鼻歌まじりにジグザグ運転をする。45年ほどバイクに乗っているが、ターンやジグザグ運転ほど気持ちの良いものはない。おっと、第二の坂道、下り坂、ここは長い、500メートルはある、傾斜度20度?

ウネウネ道が続く、もちろんブレーキはかけっぱなし、この辺になると脳裏に浮かぶのは、気持ち良さの90パーセントと、残りは「ここを登って帰るのか!?」。しかし、今は考えない!これが俺の良いところ? 悪いところ? 爽快さが勝ってる。

Wonderful!marvelous!amazing! どんな言葉も風が吹き飛ばして行く。

小海線(山梨県の小淵沢から長野県の小諸間を走るJR線)の踏切が見えてきた。前輪後輪のバランス良くブレーキをかける、今度はバネ指が悲鳴をあげる。重心を前に置いて、後輪に負担をかけないように線路を越える。右手にニセコンビニ(大手のコンビニではないので暗くなると店じまいする)、その先を右折して最後の下り坂、この坂は非常に緩い、傾斜度4度くらいか、正面12時に南アルプスの絶景、7時の方向に富士山、5時に八ヶ岳、フーーーーッ! 朝採りまで残り4~500メートル。悔やまーない~~♪♪♪

馬鹿と言われれば確かに馬鹿。俺は物事やってみなければわからない派だが、予想が出来ないわけではない。ただ予想に対して体力が追いつかない今日この頃ではある。

此処まで来ると思い切ってやって来て良かったと思う、こんな気持ちの良い体験はそう出来るものではない、不安があるとしたら、山荘からここまでとにかく下り坂、一切ペダルを漕いでない、漕ぐ必要がない。大腿四頭筋とヒラメ筋の出番はなし、帰り道のことは考えない考えない、なんて考えてるとあっという間に朝採り無人屋台に着いた。ところで、「あっ!」と思わず息をのんだ。いつもの朝採り無人屋台ふう野菜売り場に、トウモロコシがない、
な、なにーーーーっ!あの黄金色づぷつぶ憎い奴が…ないっ?……! 多少の動揺、嫌な高揚、揺るぎない慟哭。涙は出なかった、気を取り直してもう一度屋台をくまなくギョロ見。枝豆、きゅうり、なす、ジャガイモ、トマトは立派に着座していた。が肝心のトウモロコシがない、な、何故…!「ま、まだ朝採りの最中なのか?」「トウモロコシに何かあったのか!?」。
さがせーーー!さがせーーーものどもーーさがせーーーっ!五里霧中に探せーっ!
おおーーつ!!長嶋ーーッ!

残念ながら、トウモロコシよりも紙面がなくなってしまったので、今回はここまで、この話の顛末は次号で。果たしてR翁は「朝採りトウモロコシ」を手に入れることが出来るのか?
はたまた、無事山荘に戻れるのか?何やら帰り道「電動アチャリ」のチエーンが外れたらしい、
えーーーっ! また再来月!                           R翁

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